第85章

阿部律は夏川結衣の顔色をちらりと窺うと、すぐさま作り笑いを貼りつけた。自分のオレンジジュースを持ち上げ、身を乗り出して菊地杏奈のグラスに軽く当てる。

「菊地部長、みんな部長のことが名残惜しいだけっすよ。俺らの気持ち、誤解しないでくださいって」

「……うん」

夏川結衣は、テーブルの下で誰かの脚がそっと触れてきたのを感じ、同調するようにグラスを上げた。

そこから先は、さっきまでの重苦しさが嘘みたいにほどけていく。人数の多いテーブルらしい賑やかさが戻り、乾いた空気にようやく温度が宿った。

大野友菜は流れに乗って、夏川結衣が手がけた秋の第2弾新作が市場でかなりいい反響だと褒めちぎった。月末...

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