第98章

「菊地美波」

菊地杏奈は淡々とその名を口にした。顔には、余計な表情ひとつ浮かばない。

先輩たちは腑に落ちないまま、ひそひそと視線を交わす。誰も話の筋を掴めずにいた。

その様子を見て、杏奈がぷっと吹き出す。

「何を心配してるのかは分かる。でも、向こうはまだ『菊地美波を私の患者にする』って正式には同意してないよ」

肩をすくめる。

「練習してたのは、確かに彼女に使うつもりだった。でも、必ず彼女に使うって決めてるわけじゃないし」

杏奈はバッグを持ち上げ、書類を一通取り出してテーブルへ置いた。

途端に、数人がわたわたと手を伸ばし、身を寄せ合って内容を追い始める。行ごとに目を滑らせ、眉が...

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