第164章

 高橋悠人は彼女を見つめた。黒い瞳の奥に、絡みつくような優しさと甘さが滲む。ふっと笑みがほどけた瞬間、彼は声を落として言った。

 「バスの中で……お前が初めて、振り返って俺を見たとき」

 最初の頃、鈴木結月はひたすら彼を拒んでいた。けれど高橋悠人は、どこか確信していたのだ。自分はこの子が好きで――そして、いつか彼女は自分のものになる、と。

 それでも。

 毎日、バイクでバスの後ろをついて走っても、彼女は一度も振り返らなかった。

 ところがある日、結月は乗り込む直前、無意識にふっと後ろを見た。

 あの日、高橋悠人は本当に嬉しかった。分かったからだ。彼女の心のどこかに、もう自分が入り...

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