第173章

「東屋……?」

 鈴木結月は数秒、ぽかんとした。けれど高橋悠人の視線に促されるように記憶を辿り、ある雨の夜、彼が彼女の家の東屋で待っていたことを思い出す。

 結月は彼を見つめたまま、ふいに訊いた。

「もし、あの夜……私が行かなかったら。ずっと待ってた?」

 悠人はほとんど考える間もなく答える。

「待つ」

 待つ。きっと、いつまでも。

 あの頃の彼にとって、家は港なんかじゃなかった。ただ冷え切った箱だ。家族もいない、彼女もいない。そこに留まる理由なんて、ひとつもない。

 それなら、彼女のすぐ近くにいるほうがいい。もしかしたら――彼女が現れるかもしれないから。

 鈴木結月は知ら...

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