第69章

  中野博が、真剣な眼差しから迷い、そして呆然へと変わっていくのを見ているだけで、鈴木結月はつい、つま先をそっと横へずらした。

  担任が思わず高橋悠人に手を出したくなる気持ちも、正直わからなくはない。

  けれど彼女は、中野博のことを甘く見ていた。始業直前になって、8組の担任を押しつけられるように任された男だ。選ばれた理由は、仕事の実力を買われたからというより――「お人よし」で、波風を立てるのを嫌うタイプだったからに決まっている。

  そんな中野博が、まさか思いもよらない方向へ動くとは。

  鈴木結月を見て言う。

  「鈴木結月はどうだ?」

  結月は一瞬、言葉に詰まった。

...

ログインして続きを読む