第93章

中野博は、最初から二人の席を離すつもりなどなかった。

ぼんやり考えごとをしていると、職員室の奥で、ある教師が湯呑みを手にウォーターサーバーへ向かい、水を注いだ。腰をトントンと叩きながら、しんどそうにこぼす。

「なあ、こっちが死ぬほど働いて1か月分の給料稼いだってさ。生徒が一晩で女の子追いかけるのに使う金のほうが多いんじゃ、やってらんねえよ」

「岩本先生、誰の話ですか?」

別の教師が顔を上げ、興味津々に訊いた。

岩本先生は笑って言った。

「決まってるでしょ。8組の高橋悠人よ」

その瞬間、「8組」と「高橋悠人」という単語に反応して、中野博も顔を上げた。岩本先生のほうを見て、静かに尋...

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