第143章

佐藤玲奈は何も言わず、ただ顔を上げてハンスをじっと見つめていた。

一方、ハンスは何か思い出に浸っているようで、顔に懐かしさの表情が浮かんでいた。

「この玉の彫刻技術はあまり良くないんですが、不思議なことに、この鴛鴦の玉を見ていると、戦火の中で離れ離れになった恋人たちが、互いの持つ形見の品を頼りに、どんなに遠く離れていても再会できるような気がするんです。だから、私はこの玉のペアを買い取って、妻にプレゼントしたんです」

「あなたはこの鴛鴦の玉を奥さんに贈ったんですか?」佐藤玲奈は目を少し見開いて尋ねた。

「ええ、何か問題でも?」ハンスは目を伏せ、不思議そうに聞き返した。

佐藤玲奈は黙り...

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