第170章

「木村さん、今夜堀田社長と食事の約束があることはご存知ですよね。フロントから伝言がなかったのですが、もしよろしければ...」

「古川さん」木村直人は無表情で古川綾音の言葉を遮った。

「申し訳ありませんが、お取り次ぎできません。社長は今夜も別の約束がありますので」

約束？誰と？佐藤玲奈？

古川綾音の顔色が青ざめたり赤らんだりした。この時間、堀田グループにはまだ多くの社員が残っていることに気づいた。彼らはオフィスから顔を覗かせ、好奇の目や噂好きな視線を彼女に向けていた。

体面を保つため、古川綾音は無理やり笑顔を作り、優雅な態度を崩さずに言った。

「そうですか、それなら改めて約束させて...