第177章

「車に乗ろう」堀田知也は淡々と言った。

木村直人はうなずき、もう何も言わずに車を始動させた。

黒いベントレーは弦を放たれた矢のように疾走していった。

一方、佐藤大樹は約束通り八代グループ医薬会社を訪れていた。

「佐藤さん、来てくれたのね」

八代雪は佐藤大樹を見ると嬉しそうに、駆け寄って彼の手を取ろうとしたが、佐藤大樹は無意識のうちにそれを避けた。

八代雪の伸ばした腕が宙に浮いたまま固まり、彼女の笑顔がわずかに強張った。

周囲の空気には気まずい沈黙が漂い、通りかかる八代グループの社員たちが二人を好奇の目で見ていた。

しばらくして、八代雪は顔を青ざめさせながらゆっくりと手を引っ込...

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