第457章

 喧騒に包まれた街角。古川綾音は汗だくになりながら、高級住宅街へ荷物を届けていた。

「遅いんだけど? 何分オーバーしてると思ってるの。クレーム入れるわ」

 門のところに立っていたのは、赤いワンピースの女だった。細い指先には真っ赤なネイル。古川綾音を見下ろす視線が、あからさまに意地が悪い。

 古川綾音は、生まれてこのかたちやほやされてきた身だ。こんな屈辱、味わったことがない。以前の自分なら、迷いなく言い返していただろう。けれど今は――。

 古川綾音はまぶたを落とし、拳をぎゅっと握り締める。喉の奥から無理やり言葉を絞り出した。

「……す、すみません」

「ま、いいわ。かわいそうだし、今...

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