第508章

「木村さん、この蘭……」

なぜだろう。小野寺綾乃は、よく育っているその鉢植えの蘭を見つめながら、胸の奥にじわりとした不安を覚えた。

木村直人は何も言わない。蘭を机の上にそっと置くと、そのまま社長室を出ていった。

木村直人が去ってからしばらくして、堀田知也がゆっくりと振り返る。

「と、知也さん……」

小野寺綾乃は涙で滲む目を瞬かせ、迷子のように堀田知也の黒い瞳を見上げた。冷えきった、感情のない視線。遠い記憶のどこを探しても、彼が自分にこんな目を向けたことはない。

「この蘭……おまえが俺の社長室に置いたのか」

間を置いて、堀田知也が冷たく問いかけた。

小野寺綾乃は蘭と堀田知也の顔...

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