第575章

佐藤玲奈は目の前の血玉の彫刻を、まばたきも忘れて見つめていた。耳の奥で「ぶうん、ぶうん」と低い羽音みたいなものが鳴り続け、誰かが自分を呼んでいる気配がする。遠ざかったと思えば、次の瞬間にはすぐ傍で囁く。輪郭は掴めないのに、やけに生々しい。

「佐藤玲奈!」

その声に、佐藤玲奈の瞳がびくりと揺れた。怯えた視線をゆっくり回して、傍でしゃがみ込む茜谷未来を見る。

「佐藤玲奈、いまどうしたの? 魂が抜けたみたいで、いくら呼んでも返事しないんだもん。ほんと、怖かった……!」

未来は目尻を赤くして、声まで震わせている。本気で肝を冷やしたのが伝わってきた。

「……私、平気」

我に返った途端、背中...

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