第581章

堀田知也は、ずっと虚空に漂っている気がしていた。

甘ったるい香りが、時折ふわりと鼻先をかすめる。女の柔らかな肢体がぴたりと密着し、胸の奥に押し込めてきた欲を執拗に煽ってくる。

『聞きなさい。彼女こそ、あなたの妻よ』

『早く抱きしめて。あなたと……できるのは、彼女だけ――』

嫌だ。

堀田知也は心の底で冷たく拒んだ。ここがどこなのかも、傍にいるのが誰なのかも分からない。だが本能が、全力で抗っている。

『意志が弱いと、呪物に支配されやすい』

――誰だ?

耳元で囁いたのは誰だ。

どこか懐かしくて、胸の芯が静かに落ち着く声。

堀田知也はゆっくりと目を閉じた。その声が在るだけで、張り...

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