第6章

堀田家の旧宅は郊外にある小さな庭園付きの古風な別荘だった。白壁に黒瓦、控えめながらも高級感が漂っていた。

佐藤玲奈が堀田おばあちゃんを支えて家の中に入ると、堀田知也が物思いにふけるように二人の後ろをついて歩いていた。

「そういえば、あなたに渡したい手紙があるわ」

堀田おばあちゃんは何かを思い出したように、ポケットから黄ばんだ封筒を取り出し、佐藤玲奈の手に押し込んだ。

「これは……」佐藤玲奈は手の中の封筒に書かれた見覚えのある文字を見て、目に涙が浮かんだ。

「あなたの松本おばあちゃんがあなたに残した手紙よ」堀田おばあちゃんは慰めるように玲奈の手の甲をポンポンと叩き、優しく言った。「あなたの松本おばあちゃんは旅立つ前に私に言ったの。もしあなたが一年以内に知也と結婚したら、この手紙をあなたに渡してほしいって。もしそうでなければ……」

堀田おばあちゃんはそれ以上言葉を続けず、ただ軽くため息をついた。

佐藤玲奈は封筒に「佐藤玲奈宛」と書かれた見慣れた文字を見つめ、涙で視界がぼやけた。

「おばあちゃん、まだ松本おばあちゃんの消息はないんですか?」佐藤玲奈は声を詰まらせながら尋ねた。

堀田おばあちゃんは一瞬黙り、軽くため息をついてから言った。「ないわ。玲奈、あなたも知ってるでしょう、あなたの松本おばあちゃんの気質を。彼女が望めば、誰も彼女を見つけることはできないのよ」

佐藤玲奈は涙ぐみながら頷いた。

彼女は前回、おばあちゃんの言葉に従わなかったことを急に思い出し、後悔の念が胸に押し寄せた。

松本おばあちゃんは彼女が孤児院にいた頃に知り合った人だった。

松本おばあちゃんは非常に腕が立ち、占いや吉凶を見ることができた。

彼女が幼い頃、おばあちゃんは結婚するまで決して彼女の能力でお金を稼いではならないと戒めていた。

さらに、松本おばあちゃんから何を学んだのかを誰にも絶対に話してはいけないと言われていた。そうしなければ命に関わる災いを招くと。

前世では、佐藤優子が急性腎不全を発症し、4000万円の手術費が必要だった。

そして彼女は家に引き取られたばかりで、両親の承認を得るために戒めを破り、松本おばあちゃんから教わった生計の手段を使って手術費を稼ぎ、実母の佐藤梅子に渡した。

ところが、数日後、彼女が何の問題もなく道を歩いていると、突然看板が落ちてきて、病院で3ヶ月も寝たきりになってしまった……

幸いにも……

今世では、まだ多くのことを変える時間がある。

前世では、彼女は死ぬまで松本おばあちゃんに再会することはなかった。松本おばあちゃんが彼女の死を知ってどれほど悲嘆にくれたかも分からなかった。

佐藤玲奈は震える手で封筒を開け、薄い便箋に書かれた小さな美しい文字を見て、もう我慢できずに一筋の涙が静かに頬を伝った。

手紙は短く、数行だけだった。

松本おばあちゃんは、孫娘の人生は波乱に満ちているから、最後の占いを残したと書いていた。

占いの結果は大凶で、彼女の運命には血の災いがあり、3年以上生きられない可能性があるという。

しかし、もしこの手紙を見ることができたなら、それは彼女がこの危機を乗り越え、これからの道は平坦で平和になり、貴人の助けを得られるという意味だった。

最後に、松本おばあちゃんは、彼女のことをあまり心配しないで、縁があれば祖孫はまた会える日があると書いていた。

実は、松本おばあちゃんは占いや吉凶を見ることをそれほど教えてくれなかった。

松本おばあちゃんはよく言っていた、人を知り命を知れば、すべては定められているものだと。無理に天命を変えようとすれば、寿命を縮めることになると。

しかし、彼女は幼い頃から聡明で、松本おばあちゃんの古書を読むことで、少しは皮相的な知識を得ていた。

例えば、古い物から吉凶を見ることなど……

「玲奈、どうして泣いているの?」

堀田おばあちゃんは心配そうにハンカチを取り出して佐藤玲奈の頬の涙を拭いたが、拭けば拭くほど涙は増えていった。

佐藤玲奈の涙に暮れる姿を見て、堀田おばあちゃんの心は締め付けられた。

この子は、自分の見えないところでつらい思いをしているのか?

「知也、あなた玲奈をいじめたの?」堀田おばあちゃんは眉をひそめ、後ろにいる堀田知也を怒りの目で睨みつけた。

堀田知也は困ったように「おばあちゃん、僕はなにもしていません」と言った。

「何もしていないのに、どうして彼女がこんなに悲しそうに泣いているの?」堀田おばあちゃんは眉をひそめ、明らかに信じていなかった。

「おばあちゃん」堀田おばあちゃんがまだ堀田知也を責めようとしているのを見て、佐藤玲奈は急いで目の涙を適当に拭き、堀田おばあちゃんの手を取って言った。「彼のせいじゃありません。ただ松本おばあちゃんが恋しくなっただけです」

「ああ、あなたったら、本当に心配させるわね」

堀田おばあちゃんは心配そうに佐藤玲奈の手を引いて食堂へと歩き続けた。「もう悲しまないで。あなたの松本おばあちゃんもあなたがこんな姿を見たくないでしょう?」

「さあ、さっと顔を洗って、気持ちを整えたら食事にしましょう」

「はい、わかりました」

佐藤玲奈は素直に堀田家のメイドについて洗面所で顔を洗い、食堂に戻って席に着いた。

テーブルの上には、彼女が見たこともない珍しい料理が並んでいた。

「玲奈、遠慮しないで。知也にあなたのためにデザートスープを一杯よそってもらいましょう」堀田おばあちゃんは向かい側に座る二人を笑顔で見つめた。

「私が自分で……」

佐藤玲奈は急いでスプーンに手を伸ばしたが、ふと温かい手のひらに触れた。

彼女はハッとして顔を上げ、底知れない黒い瞳と目が合った。

「僕がやります」

堀田知也の低い声が静かに響き、彼はデザートスープを一杯よそって佐藤玲奈の前に置いた。

「ありが……」

佐藤玲奈が呆然と口を開いたとき、突然「パチン」という音がして、天井のシャンデリアが爆発した。

部屋の中は真っ暗になった……

「おばあちゃん!」佐藤玲奈はすぐに堀田おばあちゃんのそばに駆け寄り、彼女を守るように抱きかかえた。

「いったい何が起きたの?」堀田おばあちゃんは眉をひそめて尋ねた。

突然の暗闇で、部屋の中は騒がしくなった。

すぐに女中がキャンドルスタンドを持ってやって来た。

「おばあさま、家の配線が古くなっているのかもしれません。すでに修理工を呼びました」

「この古い家の電気設備は定期的に点検しているはずじゃないのか?なぜまだ故障するんだ?」堀田知也は眉をひそめて冷たく尋ねた。

女中の体は明らかに震え、頭をさらに低く下げた。

「申し訳あり……」

「パチパチ!」

また「パチパチ」という爆発音がして、頭上のシャンデリアがちらつき、食堂にいる人々の顔に映り、幽霊のように青白く見えた。

「おばあちゃん、先にお部屋にお連れして休んでいただきましょうか?」

佐藤玲奈は堀田おばあちゃんが急に青ざめた顔を心配そうに見て、優しく言った。

堀田おばあちゃんも確かに驚いたようで、青ざめた顔で軽く頷いた。

堀田おばあちゃんを部屋に連れて行く途中、佐藤玲奈はふと振り返り、冷たい視線を堀田知也に向けた。

ちらつく灯りの下で、堀田知也の顔は幽霊のように青白く、彼の首にかけられた玉のペンダントの赤い筋が、明滅する灯りの下でさらに不気味に見えた。

堀田知也は顔を曇らせ、佐藤玲奈が堀田おばあちゃんを支えて去っていく背中を見つめていた。彼は首の玉のペンダントを手でなでながら、深く暗い黒い瞳に不思議な感情を浮かべていた。

本当にそんなに不吉なものなのか?

突然、道中で佐藤玲奈が言った言葉が頭に浮かび、彼は冷たく目を細め、物思いに沈んだ。

佐藤玲奈の言葉を、彼は実はあまり信じていなかった。

しかし今は……

偶然か?それとも……

「ガシャン!」

堀田知也が考え込んでいる間に、天井のシャンデリアがぐらぐらと揺れ、そして重々しく落下した。

まさに彼の足元に落ちた。

「くそっ!」

堀田知也の表情が一変し、首から玉のペンダントを勢いよく引きちぎって立ち上がった。

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