第171章 あの人はまだ逃げる暇もなかった

その人物はおそらく、槇武一の封鎖命令のせいで逃げ道を断たれた。だからこそ父に手を出し、さらに大きな混乱を起こして、その隙に抜けようとしたのだ。

幸い、鳳宗一郎に大事はない。まだ事態は制御不能には至っていない。

そして槇武一も、十分に冷静だった。こちらと連絡がつかなくても、宝生家へ押しかけて無理やり呼び戻すような真似はせず、エステートの封鎖を継続した。なら、その人物は高確率でエステートの中にいる。外へ出られず、焦って地団駄を踏んでいるはずだ。

「いいわ」

鳳咲夜の瞳に、冷たい光が走る。躊躇はない。即断だった。

「松本さん。エステート内の全員――それから直近3か月の間に臨時で出入りした...

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