第232章 あなたが来ると知っていました

「おじいさまの元執事――石川のところへ」

 宝生尊の胸が、ずしりと沈んだ。

 何年も前に須藤家を去った執事の名を、鳳咲夜がこのタイミングで持ち出す。――ただ事じゃない。

 尊は横目で彼女をうかがう。

 ハンドルを握る鳳咲夜は前だけを見ていた。街灯の光が明滅するたび、横顔の輪郭がいっそう冷たく研ぎ澄まされる。

 彼女が先を語らないなら、こちらから掘り返す必要もない。尊は彼女の手の甲に重ねていた手をそっと引き、シートに背を預けた。わざと軽い調子で話題を変える。

「いいじゃん。ちゃんと俺も連れてくるって学んだな。前よりだいぶ進歩」

 鳳咲夜が小さく目を瞬かせる。張りつめていた口元が、...

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