第八十二章 彼女のために夜通し駆けつける

田中さんが物音に気づいたのか、控えめに扉をコツコツと叩いた。

「お嬢様、お目覚めでございますか。お腹はお空きでは? お粥と小鉢を温めてございますが、少し召し上がりますか」

鳳咲夜は、さっきの夢が残した感情の余韻にまだ沈んでいた。喉の奥がからからで、ひりつくように締まっている。食欲も、ない。

彼女は柔らかな枕に顔を埋めるようにして、小さく首を振った。

「……いらない。不思議と、全然お腹が空かないの。田中さん」

扉の向こうの田中さんは、その声の掠れと温度の違いを聞き取ったのだろう。間を置かず、心配そうに重ねてくる。

「お嬢様……どこか、ご気分でも? お医者様をお呼びいたしましょうか」...

ログインして続きを読む