第108章

ステージ脇に溜まっていた人だかりが、ようやく、少しずつほどけていった。

黒田理沙はペンを置く。最後のファンが、サインの入ったプログラムを胸に抱きしめ、目を真っ赤にしながら「ありがとうございます」を何度も何度も繰り返して、名残惜しそうに去っていった。

理沙は手首をくるりと回し、スマホに視線を落とす。――もうすぐ22時。

横から上山良太郎が歩み寄り、水のボトルを一本差し出した。口元には、ほっとしたような笑み。

「エイミー先生、今日はお疲れさまでした。先生がいなかったら、今回の大会の不祥事が外に漏れて、業界の面目は丸つぶれでしたよ」

黒田理沙は受け取ってキャップをひねり、一口だけ喉を潤す...

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