第112章

黒田理沙が研究所を出たころには、日差しはもう西へ傾いていた。

手を上げてタクシーを止め、行き先を告げる。向かったのは城南にある個人経営の薬局だった。

三年前、彼女が買い取った店だ。間口は小さく、古い市街地の路地裏にひっそり潜んでいる。看板は塗装が剥げ落ち、ナビでも見つけにくい。

けれど店内に並ぶものは、どれも理沙が自分の手で調合した品ばかり。

引き戸を押し開けた瞬間、ふわりと薬の香が鼻をくすぐった。

カウンターの奥にいる老人が顔を上げ、理沙だと分かると目を輝かせる。だがすぐに視線を落とし、手元の薬研をこねくり回しながらぶつぶつ言った。

「珍しい客だな。てっきりここを忘れたのかと思...

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