第116章

彼女は指先でデスクを軽く二度叩くと、すぐにポケットからスマホを取り出し、ひとつ番号を呼び出した。

「英二。ちょっと手を貸して」

電話の向こうから返ってきたのは、低く落ち着いた男の声。どこか気だるげな笑みを含んでいる。

「ボス、ご用件は?」

「ある携帯を侵してほしい」

そう言って、彼女はなおも画面の中、足早に去っていく背中を見つめた。

「中村慶太。ルイチュアングループの副社長よ。チャットの履歴、通話の録音、送金記録――全部欲しい」

「了解」

安村英二の声が一拍だけ途切れ、次いでわずかに弾んだ。

「10分ください」

黒田理沙は通話を切り、椅子の背にもたれかかる。胸元の前で指を...

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