第120章

彼女は振り返って、青山博文をちらりと見た。博文はソファに座り、新聞を読んでいる。妻の視線に気づくと、顔を上げる。

「どうした?」

「理沙、また夕飯いらないって。研究所で用事があるから残業だって」

青山彩は眉間にぎゅっと皺を寄せる。それは夫に言っているようで、独り言にも聞こえた。

「理沙があんなに無理するなんて……私たちが渡してるのが少なくて、足りないのかしら。だめね、埋め合わせしなきゃ」

視線を落として少し考え、指先でスマホを数回なぞると、別の番号へ発信した。

コールが繋がった途端、声は青山夫人らしい落ち着きと決断力を取り戻す。

「西村さん。私名義の城西のヴィラ・ユー、手続きを...

ログインして続きを読む