第129章

黒田理沙は手を引っ込め、手首に残った爪の赤い筋をちらりと見下ろす。手の甲でひと撫でしてから、くるりと踵を返した。

「川村南」

入口に立つ川村南は、過度の衝撃で思考が止まったままの顔をしていたが、名を呼ばれた瞬間、びくりと我に返った。

「そのコート、持っていって。サイズが合わないなら店で直させて。支払いは私名義で」

言い終えると、理沙はふっと息を落とし、カウンター脇にへたり込んだ中山心へ視線を下ろす。二秒だけ、沈黙。

それからポケットからスマホを取り出し、青山美玲の番号を選んで発信する。ついでにスピーカーも入れた。

プルル……プルル……二度目の呼び出しで繋がる。

『姉ちゃん?』

...

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