第234章

同時に、青山遥斗のテールランプが夜の闇に溶けるように遠ざかっていった。

黒田理沙は玄関前の階段に立ったまま、夜風に数本の後れ毛をさらわれる。冷たく孤高で、どこか壊れそうな気配。

くるりと身を翻した、その瞬間。

視線を上げるより早く、背の高い黒い影が大股でこちらへ向かってくるのが見えた。

花村尚希――長い指の先で、彼女のディオールのバッグをいとも簡単に、けれど丁寧に提げている。

「理沙」

目の前まで来ると、尚希はバッグをきちんと手渡した。声には、わずかな得意げな響き。

「片づけといた。ひとつも欠けてない」

その、見た目と中身の落差に、理沙の口元がふっと緩む。

受け取ったバッグ...

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