第25章

車内は静まり返っていた。聞こえるのは、エンジンが低く唸る音だけ。

言葉にしづらい空気が漂っている。春の霧みたいに、淡く、やわらかく、どこか甘い匂いを含んだ――そんな気配。

そのとき、スマホが不意に鳴った。

静寂を裂くような着信音に、花村尚希は眉をひそめ、ポケットから端末を取り出す。画面に表示された名前を見た瞬間、瞳の熱がすっと冷えた。

青山美玲。

黒田理沙を一度だけ見やり、通話を繋ぐ。だが、何も言わない。

「尚希兄――」

泣き声を混ぜた青山美玲の声が飛び込んでくる。

「尚希兄、聞いて。今日のこと、誤解なの……私も騙されただけなの! あの人が、あの薬は莉々さんが自分で調合したも...

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