第27章

秘書は玄関口に立ち尽くしていた。手には、徹夜で用意した婚約破棄の書類がまだぶら下がっている。硬直したままの顔は、なかなかに見ものだった。

――破棄しに来たんじゃなかったのか?

手元の書類を見て、続けて社長を見上げる。今にも相手を連れ帰って嫁にする勢いのその表情に、秘書は黙って書類をバッグへ押し戻し、一歩だけ後退した。何も見ていない、という顔で。

青山博文は花村尚希を見、黒田理沙を見て、胸の内のわずかな懸念をすっかり手放した。

花村尚希という男は、ビジネス界でも知らぬ者がいない。言ったことは覆さず、軽々しく約束もしない。

その彼がわざわざ足を運び、面と向かって口にしたのだ。冗談のはず...

ログインして続きを読む