第31章

花村尚希は一歩踏み込み、彼女の手にそっと自分の手を重ねた。

乾いていて、あたたかい掌。黒田理沙の指先と、その指にはまった指輪ごと包み込むように握り込み――きゅっと、強い。

「おじさんの気持ち、受け取って」

声は低い。さらに少し身を屈め、耳元へ。

「頼む。研介をちょっとあやしてやってくれ。機嫌がよけりゃ、回復も早い」

熱を帯びた息が耳朶をかすめ、黒田理沙の耳の先がさっと赤くなる。

顔を背けて睨み返そうとした――が、もう花村尚希は一歩退き、背筋をぴんと伸ばしていた。表情は生真面目そのもの。さっき耳元まで寄ってきたのが別人だったみたいに。

それでも、手だけは離さない。

黒田理沙は視...

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