第34章

彼女はその男に見覚えがあった。オークション会場の入口で、こちらを押しのけるようにして通り抜けた男。あの視線だけは、何日も頭から離れなかった。

「……あ、あんた……誰よ?」

声はさっきよりずっと弱い。それでも意地だけは張って、言い返す。

「これは私たち黒田家の問題よ。あなたに関係ある?」

花村尚希は答えない。ただ、半歩だけ前に出た。

何かをするでもなく、そこに立っているだけ。高みから見下ろすような眼差し。

黒田美沙子は反射的に一歩退き、ハイヒールがつるりと床を滑った。体がぐらつき、転びかける。

花村尚希はふいに顔を向ける。視線が黒田理沙に落ちた瞬間、空気が柔らかくなった。

「大...

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