第56章

少し離れたところで、黒田美穂と黒田美沙子がタクシーから慌ただしく降りた。視線を走らせた途端、人混みの中に井口景太と井口夫人を見つける。

黒田美穂は慌てて髪を整え、甘ったるい笑みを貼りつけると、黒田美沙子の腕を引いて歩み寄った。

「おばさま、景太くん。お二人も来てたんだ?」

井口夫人は顔だけこちらへ向け、黒田美穂の顔で一瞬視線を止め、背後の黒田美沙子にも目をやってから、淡々とうなずいた。

井口景太は母の背後に立ったまま、黒田美穂へ目配せする。――余計なことを言うな、と。

井口夫人はふと思い出したように眉を動かし、黒田美穂を見た。

「さっき中に入っていった車に乗ってたの、あんたのお姉...

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