第60章

黒田理沙はドア板にもたれ、腕を組んだまま、びくともしない扉を見つめていた。唇の端が、ゆっくりと弧を描く。

「鍵は?」

花村尚希はベッドに腰かけている。シャツはまだはだけたままで、腹筋が白々と露わになっていた。

彼は両手を軽く広げ、どこまでも無実そうな顔をする。

「俺が閉めたんじゃないし。鍵なんて持ってるわけないだろ」

「自分の家の鍵、持ってないの?」

「おじさんが替えたんだよ」

花村尚希は胸を張った。

「俺を締め出すために、な」

黒田理沙は顔だけ向けて、ちらりと彼を見る。

きっちり割れた腹筋をさらしているくせに、表情だけは『俺も被害者です』とでも言いたげで、妙に腹が立つ。...

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