第67章

田辺重夫の手が川村南の肩からすっと引っ込む。焦った指先が彼女の襟元に引っかかり、シャツの一番上のボタンがぷつりと弾けた。

田辺重夫は瞳孔をわずかに縮め、黒田理沙の顔から山本葵の手元――録音ペンへと視線を走らせる。口の端がひくりと吊り上がった。

「黒田社長。人のオフィスに入るなら、まずノックが筋じゃないですか」

黒田理沙は田辺を見ない。視線は川村南へ落ちていた。

川村南はデスク脇に立ったまま、先ほどまで張り詰めていた一本の糸が、黒田理沙を見た瞬間にふっと緩む。

彼女は田辺の手を勢いよく振りほどき、男の呆けた顔を置き去りにして黒田理沙へ駆け寄った。

黒田理沙の背に隠れるように身を寄せ...

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