第72章

彼女はするりと中へ滑り込み、認証機のカバーを手早くはめ直して元どおりに戻す。同時にスマホの画面には、防犯カメラシステムの操作画面が立ち上がっていた。

直前の時間帯を呼び出し、自分が侵入した映像を――廊下に誰もいないままのループ映像に差し替える。

倉庫内は薄暗い。第三列のラックの前で足を止める。並んでいるのは秋冬の新作コートだが、妙なことに二山あった。

左の山は生地が厚く、しっとりと柔らかい。縫い目も細かく、揃っている。

右の山は一段薄く、指の腹にざらつきが引っかかった。縫い目も粗い。

二着の襟元のタグをめくって比べる。ロゴ、サイズ、品番――どれも同じように印字されている。だが洗濯表...

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