第92章

人混みのあちこちから、ひゅっと息を呑む気配が広がった。

黒田美穂もその言葉を耳にして、信じられないものを見るように目の前の二人の女を見つめた。

黒田理沙みたいな貧乏人が、どうして田中家の人間と知り合いなのよ……!

そんなわけ、あるはずない。

いったい、どんなツテで――。

けれど田中菜々緒は、周囲の視線など一度も振り返らない。くるりと身を翻し、黒田理沙の腕に自分の腕を絡めた。

「理沙、行こ。ここ、空気が悪い。変なのに臭い移される」

黒田理沙はグラスを置き、静かに立ち上がる。

原田岳にちらりと目をやると、彼は小さく頷いた。口元に薄い笑みを浮かべ、手をひらひらと振って見送る。

二...

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