第98章

黒田美穂のスマホが車に落ちていた。さっき降りるとき急ぎすぎて、写真を撮るのにポーズばかり気にしてしまい、後部座席に置きっぱなしにしたのだ。

取りに戻らざるを得ない。慌てて引き返している途中、脇口のほうにいる黒田理沙の姿が目に入った。

黒のワンピースに白いトレンチ。フラットシューズ。小さめのバッグを手に、花とリボンで飾り立てたきらびやかな背景の前に立っているのに、本人だけはやけに淡く、すっとした佇まい。

――だが、美穂の視線は彼女に長く留まらなかった。

理沙の目の前に立っている男を見つけてしまったからだ。

三十代ほど。グレーのスーツを寸分の乱れもなく着こなし、髪もきっちり撫でつけてい...

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