第20章 彼女は従業員

山崎奈々はやや不服そうに立ち上がった。「今野社長、中林真由は遅刻していません。阿部静香が彼女にコーヒーをこぼしたせいで、タイムカードを押せなかったんです」

「それで? 私に楯突くつもりか?」今野敦史は表情を変えずに彼女を見つめた。

「山崎奈々、説明しなくていいわ。見えない目を持つ人もいるから」中林真由は山崎奈々が口を開く前にそれを制した。

中林真由の考えははっきりしていた。自分はもうすぐ辞める身で、何も怖くない。だが山崎奈々は違う。

もう今野敦史にびくびくしながら仕える必要はないのだから、彼には自分一人を憎ませておけばいい。

今野敦史が目を細めて中林真由に視線を向けると、阿...

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