第299章 彼女

中林真由は呆れ返った。今野敦史は一体、何のために花など贈ってきたのか。マンションは手切れ金代わりだとして、花は何だというの?

瞼を閉じると、胸の奥がずしりと重くなった。

しばらくその場に立ち尽くしていた中林真由だったが、やがて小さく溜息を吐き、配達員の方へと歩み寄った。

「お待たせしました、中林真由です」

彼女が手を差し出すと、配達員は一瞬呆気にとられた様子だったが、すぐに慌てて鮮やかな花束を手渡してきた。

認めざるを得ないが、薔薇は見事なものだった。ラッピングにも凝っており、添えられたカードには『真由』の二文字だけが記されている。

その筆跡を見て、中林真由の思考は過去へと飛んだ...

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