第329章 言いがかりをつける

中林真由は、ガランとしたロビーを背に、何とも言えない複雑な心境を噛み締めていた。

今野敦史は、もう行ってしまったのだろうか。

考えてみれば当然だ。今野家の唯一の継承者であり、今野グループの社長である彼が、こんな安っぽいホテルに馴染めるはずがない。

今野敦史という男は、死ぬほど気難しい。きっとマットレスが硬すぎるだの、布団の肌触りが悪いだの、浴室が不潔だのと言い出したに違いない。

彼は今野敦史なのだ。ここを嫌う権利がある。

それに、白川芽唯が彼を誘っていたではないか。

今野敦史と阿部静香が喧嘩をした可能性は高いが、自分を犠牲にしない彼の性格からして、白川芽唯のもとへ行き、春宵の一刻...

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