第409章 言おうとしない

 中林真由が状況を飲み込むより早く、今野敦史に抱き上げられたままエレベーターへ運ばれていた。

「とりあえず俺と来い」

 中林大樹が駆けつけたのは、その直後だった。病院に入った途端、娘が他人の腕の中にいる光景が飛び込んでくる。

 今野敦史に抱えられた中林真由を見た瞬間、反射的に追いかけようとする。だが、その肩が横からあっさりと押さえられた。

「どこ行くのさ」

 小島文彦が、にこにこと笑った目でこちらを見ている。

 だというのに、中林大樹の背筋を走ったのは、毒蛇に睨まれたような薄気味悪さだった。足に力が入らない。

 ――やばい。

 理屈より先に、そんな感覚だけが胸を埋める。

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