第84章 女への欲望

江口俊也はわずかに眉を上げた。「中林さんはこれほど優秀なのですから、きっと誰かが風雨から守ってくれますよ」

彼の物言いはいつもそうだ。春の雨のように穏やかで、聞く者の心を心地よく解きほぐす。

中林真由は気まずそうに頷くだけで、その話題を続けようとはしなかった。

江口俊也の視線が、手元の書類へと戻る。「これからこちらの会社へ? 悪くない案件のようですね」

「以前、江口家との提携資料で目にしたことがあります。規模は小さいですが、将来性は十分にある」

中林真由はもちろん、その相手が一筋縄ではいかないことを承知していた。だが、部外者に自社の業務について深く語るつもりはない。

彼女はそれ以...

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