第3章
達彦が私に真剣な約束をしてくれることは、めったになかった。
これまで九回もプロポーズしてくれたというのに、彼はそのたびに、結婚式の祭壇の前で由香のために迷うことなく背を向けて立ち去っていった。
私は馬鹿みたいに九十九歩を歩み、両足が擦り切れて血を流してやっとその九十九歩を歩み終え、彼に最後のひと足を踏み出してくれるようひれ伏して懇願した。
けれど、彼が踏み出そうとしたその一歩は、いつも由香のために引っ込められてしまうのだ。
それなのに、ハンガーに掛けられたオートクチュールのドレスを見つめていると、私はまだ魔法にかけられたようにうっとりとしてしまう。
なぜなら、今日は結婚式ではないからだ。
林野家の一年に一度の晩餐会。
彼が初めて譲歩し、妻として一族の長老たち全員に引き合わせると言ってくれた日。
結局、私はスーツケースを閉じ、それをドアの裏に押しやった。
片道切符をすでに買っていたにもかかわらず。
今夜彼が来てくれたなら、もし今回こそ私を騙さなかったなら……そう自分に言い聞かせていた。
もしかすると、本当に最後にもう一度だけ、哀れな女を演じてもいいかもしれない、と。
だが、時計の針が九時を指しても、私を迎えに来ると約束したはずの彼は現れなかった。
かかってきた達彦からの電話に出たが、彼は私に口を挟む隙すら与えなかった。
「葵、由香がバスルームで滑って倒れたんだ。かなりひどい状態でね。今から病院に連れて行かなきゃならない」
「晩餐会はキャンセルだ。またの機会があるさ。由香の容体が落ち着いたら、いつでもうちに来ていいからな。いいだろう?」
通話が切れた。
部屋の中に死のような静寂が落ちる。
ふとした衝動に駆られ、私はSNSを開いた。
由香が五分前に投稿を更新していた。文章はなく、ただ一枚の写真だけ。
そこに病院も、救急救命室も存在していなかった。
写真の中で、彼女は達彦の腕に抱きつき、達彦の両親が彼らの両脇に立っている。
達彦は彼女を見下ろし、その瞳には私が一度も向けられたことのないような優しさとひたむきさが溢れていた。
写真に添えられたキャプションは、短く明瞭だった。
『私の家族』
その写真を見た瞬間、私は思わず声を上げて笑ってしまった。
スーツケースを閉じた瞬間の自分を嘲笑うかのように。彼を待ち続けた数時間を嘲笑うかのように――本当は、今回こそただ遅刻しているだけで、すっぽかされたわけではないのだとずっと幻想を抱いていたのだ。
だが今、そんな最後の自己欺瞞の泡すらも、彼自身の手によって無残に弾け飛んだ。
九回も逃げられる結婚式を経験してきたのだ。とっくに気づくべきだったじゃないか。
神に感謝しよう。十回目はもうない。
私は未練など微塵も残さず、そのドレスをゴミ箱に投げ捨てた。
一睡もせずに夜を明かし、夜明けと共にスーツケースを引いて空港へと向かった。
搭乗手続きはすでに済ませている。
運転手がお前を見つけられない、どうして祖母の家にいないんだと、達彦からメッセージが届いた。私は返信しなかった。
彼から再び電話がかかってきた。その声色にはすでに怒りが滲んでいた。私は電話に出なかった。
機内の座席に座っていたとき、突然恵美子おばあちゃんから電話がかかってきた。
電話の向こうから聞こえてきたのは、パニックを必死に押し殺した達彦の声だった。彼は祖母の携帯を奪い取ったのだ。
「葵、お前どこにいるんだ? いつになったら会場に着く? いい加減にしろ!」
「さようなら、達彦」
私はきっぱりと電話を切り、SIMカードを抜き取ってエチケット袋に放り込んだ。
すでに切れた携帯電話をきつく握りしめ、達彦の顔から一瞬にして表情が消え失せた。
その声は掠れ、先ほどの別れの言葉の意味をまだ理解できていないようだった。
「あいつはどこへ行ったんだ……?」
祖母の恵美子は冷たく鼻で嗤った。
「達彦、あんたは真珠を魚の目玉と見間違えたのさ。あの子はもう行ったよ。二度と振り返ることはないだろうね」
「どういう意味だ? あいつはどこへ行ったんだ!? 教えてくれ。こっちにはそんな駆け引きに付き合っている暇なんてないんだ」
「駆け引き、だと?」
恵美子おばあちゃんはお腹を抱えて笑い出し、ついには咳き込むほどだった。まるで世界で一番滑稽な冗談を聞いたかのように。
「達彦、あんたは本当に傲慢だね。葵を何だと思っているんだい? 手を振って追い払い、好き勝手に呼び戻せる犬だとでも? あんたが待てと言えば、あの子が永遠にその場に留まって待っているとでも思ったのかい?」
達彦の瞳孔が急激に収縮した。ずっと手の中にあり、完全に支配下にあると思っていたものが、突然手からすり抜けて飛び去ってしまったかのように。
だが彼はすぐに胸の内の不安をねじ伏せ、冷ややかな声で言った。
「あいつがどこにいるか教えた方がいい。俺の庇護がなければ、あいつは三日と生きていけないんだぞ」
「あの子にもう、あんたの庇護なんて必要ないんだよ」
ついに達彦は耐えきれなくなり、鉄の扉に拳を叩きつけた。鈍い轟音が響き渡る。
「あいつがこのまま消えるなんてありえない! 俺はあいつの婚約者なんだぞ!」
恵美子おばあちゃんは封筒を取り出し、彼の足元へ無造作に投げ捨てた。
「達彦、葵はもう二度とあんたを振り返ることはない」
達彦は身をかがめて封筒を拾い上げ、中から書類を取り出すと、ふいに息を呑んだ。
それは私が署名した合意解約書、そして……
チューリッヒ経由のフライト画面のスクリーンショットだった。
彼は魂を無理やり引き裂かれたかのようにその場に立ち尽くし、両目を赤く血走らせ、全身の震えを止めることができなかった。
「こんなの嘘だ……あいつはただ拗ねているだけだ。俺のことをあんなに愛しているのに、俺をいらないなんて言うはずがないじゃないか」
恵美子おばあちゃんはバタンと勢いよく玄関のドアを閉め、彼の鼻先でそれをピシャリと遮った。
「出てお行き!」
達彦は狂ったように車を飛ばし、いくつもの赤信号を無視して、ようやくターミナルの外で急ブレーキをかけて車を止めた。
彼は制止しようとする警備員を力任せに突き飛ばし、よろめきながら巨大なフライト案内板の下へと駆け寄り、スクロールしていく文字をまばたき一つせずに見つめた。
『出発済み』の数文字が、巨大な嘲笑のように達彦の目を激しく突き刺した。
