1-ワインと魔女
私は立ち止まり、窮屈なハイヒールの位置を直した。高級レストランを自称している割には、正直言って挑発的すぎるウェイトレスの制服。これに合わせた黒のヒールだ。結局のところ、エロは金になるということだろう。もっとも、客にそんな真似をさせるつもりは毛頭ないけれど。
『ボーダーライン』は、普通の人間と『魔法種(マジック)』の両方を受け入れる、この街でも数少ない店の一つだ。だから、長時間労働で給料は安く、制服も着心地が悪いときているが、私にとっては完璧な職場なのだ。「印」はあるものの、これといった魔法のスキルを持たない者を雇ってくれる場所なんて、ここくらいしかないのだから。
他の子供たちと同じように、私も生後数日で魔法の検査を受けた。具体的な血統が不明で、魔法の正体も特定できなかったため、私の右上腕には繊細な渦巻き模様の「印」が刻まれた。種族ごとにレッテルを貼るのは懸念すべきことに思えるかもしれないが、実際にはこれで多くの命が救われている。大抵の種族には弱点がある。自分がどんな被害を与えているか気づきもしない無神経な連中に、その弱点を不用意に突かれないようにするためには、事前に知っておくほうがずっと避けやすいからだ。
私自身、この「印」について詳しいことは知らない。ただ、それが魔法によって施されること、そして100パーセント普通の人間でない限り、誰もが持っているということだけは知っている。この大都市では、人口の約50パーセントを普通の人間が占めている。
判別しやすい魔法種もいる。シフターは親から能力を受け継ぐため、生まれた時から腕にシフターとしての印がある。模様はそれぞれの種族によって異なる。魔女や魔術師もまた、親から力を受け継ぐため判別は容易だ。しかし、私のような人間は分類が難しい。
私は生後わずか数時間のとき、魔法種専門の病院の前に置き去りにされた。数日間にわたる検査の結果、既知のどの種族でもないが、確かに魔力を持っていることが確認された。そして私は「不明種(アンノウン)」としての印を押されたのだ。クールでミステリアスに聞こえるかもしれないが、信じてほしい、現実はそんな甘いものじゃない。人間と魔法種は、それほど仲が良いわけではないのだ。人間たちは私が魔法種の印を持っているから受け入れないし、魔法種たちは私がどのグループにも属さないから受け入れない。
この街で他の「不明種」を見つけることすらできない。たいていの人は、自分の能力を自覚できる年齢になれば、すぐに印を修正してもらうからだ。私の人生はそう簡単にはいかない。検査結果が示した通り魔力はあるのだが、既知のどの魔法種の特性とも一致したことがないのだ。そのため、印を修正することもできずにいる。もし私の魔法が、畏怖されるような劇的で強力なものなら問題なかったかもしれないが、あいにくそうではない。
ドラゴンのシフターのように火を吹くこともできなければ、魔女のようにムカつく相手に呪いをかけることもできない。錬金術師のようにポーションを作ることも、サキュバスのように人を誘惑することもできないのだ。自分の持つ力をありがたく思っていないわけではない。興味深い力だとは思う。ただ、実際のところ威力に欠けるし、ほとんどの場合、何の役にも立たないのだ。
私の特別な魔法スキル、それは「運命の糸」を見る能力だ。運命の糸というと、誰もが運命の相手と結ばれる「赤い糸」を思い浮かべて、ロマンチックな妄想を膨らませるだろう。確かに、私にもそれが見える。だが、糸はそれだけではない。色も意味も異なる、別の糸が存在するのだ。
人と人を繋ぐ「青い糸」がある。これは、その二人が友人になる運命にあることを示しているようだ。もちろん、他の友人ができないという意味ではない。ただ、その特定の二人が出会うべくして出会い、やがて親しい友人になるということだ。
もう一つは「黒い糸」だ。これは、敵対する運命にある人々の間に現れる。私は、この糸をたくさん持っている人には近づかないようにしている。宿敵が山ほどいるような人物とは、そもそも関わり合いになりたくないからだ。
たまに、それ以外の糸を見かけることもある。だが、色分けされた解説付きのガイドブックを持っているわけではないので、意味がわからないことも多い。人々やその友人をつけ回して人間関係を観察でもしない限り、その糸の意味を解明するのは不可能だ。
「緑の糸」は、おそらく運命的な師弟関係を示しているのだと思う。若者と老人、生徒と教師、あるいは子供と祖父母が繋がっているのをよく見かけるからだ。もう一つ、かなり確信を持っているのが「白い糸」だ。これを持つ人は滅多にいないが、見かけるときは決まって医師や消防士、あるいは人助けを生業とするタイプの人たちだ。私の推測では、白い糸で繋がれた相手の命を救う運命にあるのではないかと思っている。
私は常にこれらの糸を見ているわけだが、それはもう、すべてが絡まり合って収拾がつかないありさまだ。時々、自分の青い糸を赤い糸と勘違いして、破局が決まっている関係に足を踏み入れてしまう人たちもいる。多くの人は1本か2本しか糸を持っていないし、全く持っていない人もいる。ただ、赤い糸を2本以上持っている人は一人もいない。運命の相手は一人につき一人。欲張る必要はないということだ。
せめてもの救いは、二人の人間が互いにかなり近く、そうね、せいぜい数ブロック以内の距離にいない限り、その間の糸が見えないことだ。私自身の糸が見えるのかどうかはわからない。これまでに見たことはないけれど、それが何かを意味するわけでもない。私には糸なんて最初からないのかもしれないし、あるいは単に、糸が見えるようになるほど誰かと近づいたことがないだけかもしれない。
まだ相手に出会っていなくても、誰もが赤い糸を持っていることはほぼ間違いない。糸によって予言された運命の二人がすでに出会っているかどうかも、私にはわかる。もし糸が微風になびくように軽やかで頼りなければ、二人はまだ巡り合っておらず、関係が固まっていない証拠だ。逆にもっとしっかりとしていて、糸がピンと張っていれば、二人はすでに出会っているということになる。
こう言うと素敵な能力のように聞こえるかもしれない。でも実際は、それほど大したものではない。運命というやつは自分の仕事をわきまえているし、私の助けなんて必要としていない。だから基本的に私にできることといえば、ただ糸を眺め、本人は存在すら知らない事柄について、心の中で勝手に他人を裁くことくらいだ。能力としては役立たずなだけでなく、かなり気が散るという厄介な側面もある。
他人には見えない心臓から伸びる輝く糸を見つめるのに忙しくて、相手の顔に注意を向けるのは難しい。大抵の場合、私はそれらを無視しようと努めている。私は少々社会不適合者なところがあるので、避けられるならわざわざ私と関わろうとする人はほとんどいない。糸のせいで、職場ではちょっとした夢想家だという評判が立っているくらいだ。
仕事着の袖は長く、私の「印」を隠してくれている。印の渦巻き模様は運命の糸を表しているとされ、赤、黒、白の三色で描かれている。実際、その印はかなり綺麗なのだけれど、本物の糸を見ることに比べれば何でもない。それでも職場では隠し通しているし、あまりジロジロ見られない限りは普通の人間として通すことができる。そのおかげで、人間に対して高慢になりがちな「魔法族(マジック)」を相手にするよりも、人間の客を接客するほうがはるかに楽だ。
私の肌はかなり白く、身長も体格もごく平均的だ。髪は直毛のロングヘアで、腰のあたりまである。色は闇夜のようなダークブルーで、大抵の人は染めていると思い込むけれど、よく見れば生え際の色が違うなんてことはなく、正真正銘の地毛であることがわかるはずだ。髪と同じ色の眉毛も、もう一つの証拠だ。
瞳の色も青なのだが、あまりに色が薄いため、ほとんどの人は無色だと思ってしまう。もし瞳孔がなかったら、完全に盲目に見えるかもしれない。少し不自然に見えるせいで、人々を不安にさせてしまうこともある。だから私は、客に挨拶するときは床を見つめる癖がついた。人間の店なら問題になるかもしれないけれど、「変身種(シフター)」や他の魔法族が頻繁に出入りするこの場所では、対立や無用な優位争いを避けるための作法として、むしろそれが当然とされている。
数ヶ月前にコンタクトレンズを試してみたこともあったけれど、つけ心地が悪すぎて断念したし、そもそも使い続けるには私には高価すぎた。背後で咳払いが聞こえ、私は物思いから現実に引き戻された。高いヒールのままその場で振り返り、危うくつまずきそうになる。一部の魔法族が生まれつき持っているような優雅さが、私には決定的に欠けている。
シフトマネージャーであるアンソニーの鋭い視線に、私は思わず身を縮こまらせた。思った以上に長く手を止めてしまっていたようだ。私は背筋を伸ばし、さっき置いたばかりの汚れた皿の載ったトレイを掴むと、厨房へと急いだ。二十番テーブルに運ぶ料理のトレイと交換するためだ。
月例の「女子会」の真っ最中である魔女のグループの前に、最後のワイングラスを置こうとしたその時だった。自分の胸から、青い糸がふわりと漂い出ているのに初めて気がついた。手が滑り、ワインを少々こぼしてしまう。幸いなことに、魔女たちはすでに私の失態に気づかないほど泥酔していた。
私はこぼれたワインをさりげなく拭き取り、急いでテーブルから離れた。目でその糸を追う。糸は「ボーダーライン」のドアを抜け、通りへと続いていた。糸を辿って、その先に繋がっている誰かに会いたいという衝動に駆られる。奇妙な印のせいで、私にはこれまで親友と呼べる存在がいなかった。少なくとも子供の頃以来はずっと。運命の友人というのは、まさに私の夢そのものだ。
一瞬、シフトの残り数時間を放り出して、とにかく行ってしまおうかと考えた。けれど今は土曜の夜で、ディナーのピークはまだ半分しか過ぎていない。本当に必要なこの仕事を失うわけにはいかない。私は深呼吸をして、糸があるということは、それが運命なのだと自分に言い聞かせた。たとえ私が探しに行かなくても、いずれその人と出会い、友達になれるはずだ。
私は待つことに決め、その人が私を見つけるのにあまり長い時間がかからないことを祈った。もうずいぶんと長い間、私は孤独だった。本当の友達がいないだけでなく、デートさえしない。実のところ、デートなんて笑い草だ。たとえ私と付き合ってもいいという物好きな人がいたとしても、私たちの間に赤い糸がないことが見えてしまえば、その関係がいずれ破綻する運命にあるとわかってしまう。さらに最悪なことに、相手の「本当の」赤い糸が見えてしまうから、その人が本来誰と結ばれるべきなのかまでわかってしまうのだ。
いいや、デートなんて絶対に無理だ。私はただ、自分の赤い糸が現れるのを待つしかない。
