6-アブダクションとアルファ
ポールは悪態をつき、私に向かって手を振り上げたが、それが届くことはなかった。ベラミーが彼の手首を掴み、強く締め上げたのだ。彼が口を開いたとき、その声には凄みがあった。
「出て行け。二度とライアンに話しかけるな。魔法使いの存在がそれほど気に入らないのなら、別の住処を探すことをお勧めする」
具体的な脅し文句はなかったが、その口調と眼差しだけで十分だった。ベラミーが手を離すと、ポールは後ずさりし、逃げるように階段を駆け下りて自分の部屋へと戻っていった。
今度の隣人は、前の何人かよりは長続きするかもと期待していたのだが、どうやら無理だったようだ。
(自分へのメモ:住人を怖がらせて追い出したこと、マギーに謝らなきゃ)
私はため息をついた。
「あんなことしなきゃよかった。私が魔法使いだって知らせる必要なんてなかったのに。これでマギーはまた二階の新しい住人を探さなきゃならなくなる。彼があまり偏見のないタイプには見えないって、彼女は忠告してくれてたのに」
私はベラミーに対してというより、自分自身に向かってぼやいた。
彼は肩をすくめた。急に彼の敵意が薄れたように見える。ほんの数分前までは敵対していたのに、今や味方に変わったようだ。
彼自身がその変化に気づいているかは怪しいが、姿勢さえも変わっている。さっきまでは肩を怒らせ、私の不審な動きを警戒して監視しているようだったが、今は肩の力が抜け、危険や欺瞞の兆候を探すというより、純粋に私という人間を観察しているような雰囲気だ。
「あいつには当然の報いだ」
彼は上の空のようだ。私の腕、正確には袖が落ちて隠れてしまった『刻印』のある場所をじっと見つめている。
私は袖をさらに引き下ろし、彼を睨みつけた。そもそも彼が私のドアを激しく叩いたりしなければ、こんなことにはならなかったのだ。普通の人間みたいにノックすればよかっただけなのに。私は本当に、ただベッドに戻りたいだけだ。起きてから三十分も経っていないのに、私の人生はすでに崩壊しかけている。今日はろくな日にならないと分かっていたけれど。
「他に何か用?」私は苛立ちを隠さずに問い詰めた。ベラミーは困惑した表情を浮かべる。
「私に何か用があるの? もし無いなら、私にもやることがあるから、さっさと帰ってくれると助かるんだけど」
やること、たとえば寝るとか、今夜の仕事の前に数時間ネットフリックスを見るとか。
それに、今はとにかくベラミーに帰ってほしかった。彼とは『赤い糸』で結ばれているのかもしれないが、一日のこんな早い時間からこれほどの感情の波にさらされる準備なんてできていないし、これ以上彼と時間を過ごす覚悟もない。
運命の相手だというなら、何も急ぐ必要はないはずだ。
ベラミーが何か言おうと口を開いたが、私はそれを遮った。
失礼だって?
その通り。でも、勝手に上がり込んできたのは彼の方だ。私は彼に手を添えて、ドアの方へ少し引っ張った。不意を突かれたのか、彼はなすがままにアパートの外へと誘導される。私が何をしているのか、彼自身気づいていないのかもしれない。
「話はこれでおしまい。今はあなたの相手をしてられないの。だから帰って」
私はきっぱりと言い放ち、部屋の中へと後退する。
「よい一日を、ベラミー。あなたの妹とは友達になる運命みたいだから、またそのうち会うでしょうし。それじゃ」
言い捨てて、私は彼の目の前でドアを閉めた。数瞬後、彼が再びドアをドンドンと叩く音がした。
「ライアン! 開けろ、話はまだ終わってないぞ」ドア越しに彼の怒鳴り声が響く。
「私は終わったの! どっか行ってよ、ベラミー」
私は言い返した。彼が小声で悪態をつくのが聞こえた。
「話はまだ終わっていない。お前は俺と話すことになる。それも、すぐにだ」と彼は答えた。私は小さな窓から外を覗き、彼が階段を降りていく姿を目で追う。彼が立ち去るのを見届ける。
実のところ、彼が建物を出て通りを進み、角を曲がって見えなくなるまで、私はずっと見守っていた。三階からだと、ずいぶん遠くまで見渡せるのだ。私は安堵のため息をつく。心身ともに消耗しきっているし、ソウルメイトを見つけてしまったことの意味や影響について考えるには、まだ心の準備ができていなさすぎる。
だから私は足を引きずるようにして部屋に戻り、ベッドに潜り込んで丸くなると、すぐに眠りに落ちた。しかし、眠りは期待していたような安らぎをもたらしてはくれなかった。夢の中でさえ、ポールと私の間にベラミーが割って入った瞬間や、またすぐに話そうという彼の約束が、何度も何度も再生されて止まらないのだから。
別のシフターに遭遇するまで、丸二日が何事もなく過ぎ去った。私はまた仕事に出ている。ランチタイムのシフトの穴埋めだ。本来は休みの予定だったのだが、今朝アンソニーから電話があり、病欠のスタッフの代わりに出てくれないかと頼まれたのだ。
彼があんなに丁寧に頼みごとをしてきたのは初めてだと思う。別にここにいたいわけではないが、いつものように臨時収入はありがたい。だから私は不満を飲み込んで仕事をしているのだが、この忌々しいヒールのせいで足はすでに限界を迎えている。こんな凶器のような竹馬で私たちを歩き回らせようなんて考えた奴を、心の中で呪わずにはいられない。そんな人間は、残りの人生、毎日ありとあらゆる場所で足の小指をぶつければいい。私は十五番テーブルにいる人間のビジネスマンたちの注文を取るために、顔に作り笑いを貼り付ける。
「いらっしゃいませ、『ボーダーライン』へようこそ。本日の担当のライアンです。まずはお飲み物はいかがですか?」
三人の男たちは誰も答えない。彼らは何かに釘付けになっている。私の後ろで何か面白いことでも起きているのだろうか? 誰かが咳払いをするのが聞こえ、私はゆっくりと振り返る。そこには、屈強な男が二人、私を待ち構えていた。二人ともジーンズに暗い色のTシャツという出で立ちだ。
「ライアン・ゲイルか?」そのうちの一人が尋ねる。一体何が起きているの? 私は警戒しながら頷く。
「よかった。ご同行願えますか」男は私が腕を取れるように腕を差し出す。口調こそ丁寧だが、それが依頼ではなく命令であることは明白だった。
私はアンソニーを探して周囲を見回すが、どこにも姿が見当たらない。いたとしても、あまり役には立たないだろうけれど。私はまだ男の腕を取らない。誘拐されて殺されたりするのは御免だ。
「あなたたちは誰? なぜ一緒に行かなきゃいけないの?」私は問い詰める。
「失礼しました、ゲイルさん。私の名はショーン、こちらはアーロンです。我々は地元の猫科シフターの群れの者です。我々のアルファが、至急あなたにお会いしたいと」
ショーンが一歩近づき、私のパーソナルスペースに侵入してくる。
騒ぎを起こさずにこの男たちとの同行を拒否するのは不可能だということが明らかになる。騒ぎを起こすのは本意ではない。そもそも、ここのセキュリティはどうなっているの? 別の店員が私を見ていることに気づいたが、心配している様子はなく、怒っているように見える。私がこれを仕組んだとでも思っているのだろうか? 本気で言ってるの? 私は最後の抵抗を試みる。
「見ての通り、私は今仕事中なんです。数時間後に出直していただければ……」
言葉を濁すが、シフターたちはただ私をじっと見つめるだけだった。
