第11章 彼が来た

入院三日目で、小林舞香は退院の手続きを済ませた。

膝の腫れは少し引いたものの、まだ装具は外せない。歩けば、どうしても足を引きずる。

チア部の友人たちは今朝みんな授業がある。舞香は誰の手も煩わせたくなくて、年上の身内が迎えに来る、とだけ伝えていた。

けれど、今の自分の状況を本当に誰かへ話したわけじゃない。話せなかったし、話したくもなかった。

松葉杖をつき、ゆっくりと病院のロビーまで出た、そのときだった。

「お兄ちゃん、これ、ちょっと味変かも」

聞き覚えのある声に、舞香は顔を上げた。

ロビーの真ん中に、矢野汐里が立っている。白いワンピース姿で、手にはミルクティー。唇を尖らせ、不満そ...

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