第25章 センター

小林舞香は、何も言わなかった。

体育館の入口に立ったまま、矢野郁真の最後のひと言まで聞いて、彼をひと目だけ見た。それから、くるりと背を向けて歩き出す。

言い争いもない。問い詰めることもない。余計な表情ひとつ、見せなかった。

矢野郁真はその場に立ち尽くし、夜の中へ消えていく彼女の背中を見送った。背中はどんどん小さくなり、やがて街灯の明かりに溶けるように見えなくなる。

最後に、彼は音もなく息をついた。追いかけはしなかった。

さっき小林舞香が向けてきたあの目を思い出すと、追いついたところで無意味だと思えた。

翌日、小林舞香が体育館へ来て、最初に目にしたのは矢野汐里だった。

鏡の前に立...

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