第40章 私のもの

彼の歩みは決して速くなかった。けれど、その場にいた全員の視線が、自然と彼へ吸い寄せられていく。

小林修平。

黒のシェルジャケットを羽織り、右腕の袖は下ろされたまま。包帯の気配は外からは見えない。

髪は少し乱れ、目の下には濃い隈が落ちていた。遠くから急いで戻ってきたのだと分かるのに、背筋だけはぴんと真っすぐだった。

その視線がざわつく人だかりをひと撫でする。そして迷いなく、小林舞香のいるほうへ定まった。

松本菜々緒が勢いよく小林舞香の袖を引く。

「舞香! 叔父さん! 助かった、これでもう勝てる!」

どうしてそう思うのか、自分でもうまく説明できない。ただ、小林修平が来た――それだけ...

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