第68章 見物する

体育館の入口の空気が、ぴたりと固まった。

――けれど、それも二、三秒。

次の瞬間、場が爆ぜた。

誰かがスマホを構え、誰かが口元を押さえて隣に何か囁く。ざわめきが波みたいに押し寄せ、音だけが膨らんでいく。

矢野郁真はその場に立ち尽くしたまま、信じられない目で小林舞香を見た。

まるで、初めて会う相手でも見るように。

舞香は泣かなかった。顔にも余計な感情は浮かばない。ただ静かに、そこにいる。

「……自分が何言ってるか、分かってんのか」

郁真は声を低く落とした。

一歩、前へ出る。すると周囲が勝手に後ずさりして、彼のために空間が空いた。

「小林舞香。俺に腹立てるのは勝手だ。でも婚約...

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