第69章 娘は一人だけではない

矢野行正は返事をせず、別の話題を持ち出した。城東プロジェクトのことだ。

「城東の件だけど、前にちょっとした行き違いで止まっただろ。ずっと気にしてたんだ」

「うちは長いこと組んできた。子ども同士の小さな揉め事で、本筋まで止めるのは違う」

「明日、時間あるか? 矢野家としては譲歩する。会って話そう」

小林建夫の声が、露骨に弾んだ。

「明日の午後で? こちらで段取りします」

矢野行正は通話を切り、口元をゆっくりと吊り上げた。

小林建夫が断らないことは、最初から分かっている。

あの男は一生、損得の計算だけで生きてきた。親情も娘も、数字に換算できるものにすぎない。

譲歩は3ポイント。...

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