第70章 小林雨音の第一歩

「……ない」

小林舞香はそう答えた自分の声が、どこか不自然に聞こえてしまって、俯いたまま牛乳をひと口飲んだ。視線はカップの白い液体に縫い留められ、もう何も言えなくなる。

なぜだろう。婚約を解消したことを、小林修平には言いたくなかった。

自分の中でもまだ飲み込めていないのかもしれない。口にした瞬間、小林家の人間から浴びせられる非難と向き合わされる気がしたのかもしれない。小林修平もほかの連中と同じで、舞香が矢野郁真と政略結婚して利益をもたらすことを望んでいるのか――確信が持てなかった。

分かっている。小林家が許すはずがない。

父からの電話は、まだ来ていない。知らないだけだろう。

もし...

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