第114章

会社ビルの一階にあるカフェ。

向かいに座る大旦那様を見つめながら、谷口凛華は呆然としていた。

まさか勤務時間の真っ最中に、わざわざ大旦那様が足を運び、「少し会いたい」と言い出すなんて。

大旦那様はコーヒーを持ち上げ、ひと口だけ静かに含む。いつもなら威厳のあるその顔に、今日はどこか諦めにも似た疲れが滲んでいた。

「二人は、いったい何を考えている。夫婦がいつまでも別々に暮らしていて、誰のためにもならんだろう」

谷口凛華は一瞬、言葉を失った。

大旦那様の、痛むほどに優しい視線とぶつかった途端、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

この家に足を踏み入れてからというもの、周囲は彼女に露骨な反...

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