第116章

谷口凛華は気取った素振りも見せず、救急箱をもう一度開けた。軟膏を取り出し、しゃがみ込むと、傷口を丁寧に処置していく。

「会社同士の提携は、情だけで決まるもんじゃない。大事なのは、これからの戦略だ」

頭上から、掠れた声が落ちてきた。

谷口凛華は手を止め、ぽかんとする。

――いまのは、何? 説明してるつもり?

やがて口元に浮かんだのは、自嘲の笑みだった。

一家の主である桐生朔弥は、昔から独断専行だ。誰かに相談もしないし、ましてや丁寧に言い訳なんてしない。……ただの暇つぶしの雑談だろう。

それにしても、こんな話、いまさら何の意味がある。時間の無駄だ。

機嫌の悪さがそのまま指先に乗り...

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