第84章

夜の帳が下りる。

帰宅した谷口凛華は、ひと眠りしようとベッドに身を沈めかけた。だが、その瞬間――電話のベルがけたたましく鳴り出す。

「今、何をしている。ずいぶん帰ってこないじゃないか。もうすぐ幼稚園の保護者会だろう。二人で出席しなさい」

受話器越しに届いたのは、大旦那様の穏やかな声。けれどそれは相談ではなく、やわらかく包んだ命令だった。

言外に、はっきりと示している。谷口凛華と桐生朔弥――二人で保護者会へ行け、と。

凛華は息を吸い込む。断りの言葉が喉元までせり上がるのに、どうしても口にできなかった。

相手が他人なら、迷いなく断れる。だが大旦那様となると話は別だ。

身体が弱い。こ...

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